心地よい暮らしを求めて

花束エッセイ

SNSや雑誌の特集記事を通して他人の生活を眺めていると「素敵」と思うことがよくある。

それは、インテリアであったり、食べ物であったり、その人が持っているもの、愛用しているものであったり、その時々によって異なります。

洗練された部屋に選び抜かれた家具。色とりどり季節の旬の食材を使った食事。デザインやカッティングが素晴らしい洋服や小物。写真の向こう側で暮らしている、その人のセンスが光る。

                           

大学卒業後、パティシエとして働く日々。

一人暮らしの私の部屋は殺風景。忙しくて生活になんて構っていられなかったのです。

ご存知の方もいるとは思いますが、飲食業の多くがブラック。類に漏れず私の勤務先も過酷な環境でした。

まだ日が昇る前の早朝から始まる仕上げ。日中の仕込みを経て、閉店後の片ずけ掃除まで終わると一日の労働時間は約15時間。家に帰ると、簡単にコンビニのお惣菜や冷凍食品で食事を済ませて、シャワーを浴びて眠るだけ。疲れ過ぎると夕食も取らずに、床で寝ていたこともありました。

週一の休日は体を休める休息日。ぐっすり寝て、翌週に備えてスーパーに買い物に行くと終わってしまう短い一日。

                             

そんな私の楽しみは好きな雑誌を読んで、

「私もこんな暮らしを送りたい」なんて憧れて、あれこれ想像することでした。

                          

仕事を頑張るのは美味しいお菓子を作れるようになるため。

そんな決意を持って挑み、働いていましたが。徐々に私自身が壊れていってしまいました。

繁忙期に近づくにつれ、睡眠時間も少なくなり。

記憶力が続かず、ありえないミスが増え。どう頑張ってもただ空回りするだけ。

これはおかしいと思い、病院へ行き、仕事から少し離れてみることを決意しました。

                            

忙しい日々で食事や睡眠もまともに取れていなかった生活から一変。実家に帰り、よく寝てよく食べ、ぼーっと過ごす毎日をしばらく送りました。

有り余る時間。そんな時、ふっと考えてみました。

私が憧れていた暮らしとは、どんな暮らしなのか。

                                

「ていねいな暮らし」という言葉に惹かれ、本やネットで得た情報を参考に、お料理に凝ってみたり、ナチュラルな洋服を選んでみたりしました。

もちろんそこで得たこともたくさん。生活に取り入れたこともあります。

でも全てに私の心が踊り、ときめくものではありませんでした。

それは私が全てを取り入れてみようと必死になっていたからだと思います。

                                 

私が憧れていた生活は、自分が心から楽しめるもの、素敵だと思えるもので囲まれた、心地よい暮らしなのではないかと気づきました。

イギリスに留学していた時、ホストマザーのルーシーはよく「lovely!」と言っていたことを思い出しました。

天気が良かったらLovely!

カフェで美味しいケーキを食べたらLovely!

Lovely は「素敵」「いいね」という意味があります。

私の日々も素敵なもので満たしたい、そんな気持ちになりました。

                                

私がしばらく自分なりの心地よい暮らしを求めて気づいたこと。

素敵だと感じるにはどんな小さなことも楽しむこと。

時間は無限にあるように思えても、限られているもの。がむしゃらに一生懸命に働くことも必要だけれど、自分のことをいたわる時間も大切。

モノが溢れている現代。便利なもの、欲しいものもたくさんある。だけど、全てを手に入れたら、家もカバンもモノで溢れかえってしまう。今あるものを大切に使い、本当に心から素敵、欲しいと感じたものを選び抜きたい。

食事は自分の体を造るもの。旬の食材を楽しみ、なるべくヘルシーな食生活を心がけたい。でもストイックになり過ぎず、スイーツも美味しく食べること。

これが少しずつわかってきた私が憧れていた暮らしのカタチ。

                                    

他の人から見た、センスの良し悪しではなく。自分で考え、悩んで、選択をする。

まだまだ手探りだけれど、自分の好きで囲まれた、心地よく素敵な暮らしを送りたいな。なんて思っています。

                                    

人それぞれ大切にしていることもポリシーも違います。

誰かのコピーではなく、私なりの愛しい日々を創れたらいいな。

そんな思いで今日も楽しく一日を過ごしたいと思います。

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